青春のむず痒さを描く劇場アニメ『リズと青い鳥』に心を抉られる

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高校時代のデジャヴを感じさせる『リズと青い鳥』は純粋にひとつの映画として観て大丈夫!

原作小説「響け!ユーフォニアム」シリーズは読んだことはないし、TVアニメ版も見たことはないのですが、ふと試写会で観る機会のあったアニメ映画『リズと青い鳥』。ふたりの女子高生の友情物語と、簡単に言ってしまえばそれだけのもの。大きな見せ場もなければカタルシスを感じさせる瞬間も無いかもしれないのですが、驚くほど観る者の心を抉り取る傑作でした。
吹奏楽部に所属するふたりの女子高生、オーボエ担当の鎧塚みぞれとフルート担当の傘木希美。みぞれは静かで自己主張もあまりしないのですが、希美が本当に大好きで彼女が白といえば黒さえも白にしてしまうほど、希美至上主義のような性格。一方の希美は気さくで誰とでも仲良くなれて、部の後輩からの人望も厚く、フルートもかなりの腕前のキラキラした少女。ふたりは仲の良い友人ですが、高校最後のコンクールを前にして、それぞれの進路や少しずつ広がっていく自分たちの世界を前に、徐々にその関係がギクシャクしていきます。課題曲「リズと青い鳥」にはオーボエとフルートのソロパートがあるのですが、なかなか息の合わないふたり。学校が世界の全てで、非常に小さなことに一喜一憂し、傷付きやすく、自分の若さに気付いていない、そんな高校時代を思い起こさせる物語でした。
この映画はTVアニメ「響け!ユーフォニアム」のスピンオフ的な作品なのですが、TVアニメを見てなくても原作を読んでなくても、全然大丈夫でした。見てたら見てたで更に楽しめるのかもしれないですが、見ていなくても彼女たちの関係性は初見でもわかりやすく、その理由は自分の高校にもこんな子達がいたような気がするから。なのでTVアニメ版を見ていない人も、TVアニメの劇場版という概念は捨て去り、純粋にひとつの映画を観に行くつもりで観てみてください。

絶対に映画館で観るべき静かな日常を描くアニメの監督&スタッフは、映画『聲の形』のチーム

さてこの映画、絶対に映画館で観るべき映画です。監督の山田尚子さんも舞台挨拶で言っていましたが、映画館で最高のパフォーマンスを発揮することは間違いないです。その理由は、純粋に絵と音に最大限のこだわりを見せているから。日常の足音やフルートに口をつける際に唇を湿らせる音、少女の髪の毛の一本一本まで、非常に丁寧に描かれています。
本作の山田尚子監督とスタッフは2016年に大ヒットしたアニメ映画『聲の形』の面々が再集結したものとのこと。正直、映画『聲の形』は、筆者にはものすごく響いたわけではないのですが、あれだけヒットした作品を作った人たちが作ったのなら、その映像や音の美しさは納得出来るかなと思います。

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結局、仲良しの友達でも最後までどこかズレていた。だからこそ、最後が美しい

本作のWヒロインのみぞれと希美は、仲良しの二人組でありながら、どこか噛み合っていないというか、ズレている感じがしました。希美大好きなみぞれは希美のことしか見ていなくて、音楽の類稀なる才能を持っているのに、あまり音楽に興味はなく、一直線に希美LOVE。一方の希美は後輩みんなに人気者で人望もあるのに、周りの後輩や自分を一番大切にしてくれているみぞれのことを本当の意味では見ていない。そのことが物語の随所で、ある時は登場人物の小さな仕草で、またある時は彼女たちの足音のテンポで描かれていて、とてもささやかながらも、物語自体が静かなため目にとまり耳が音を拾っていきます。正直観ている側からすると「それはどうなの!?」と思わされる言動も多々あります(みぞれの希美に依存した考え方や、希美のみぞれに対する態度など)。ただそのどれもが高校生の女の子のリアルに迫っていて「いやー、こいつら若いなー」というむず痒さで押し流されていく感じがします。そしてそんなチグハグなふたりの関係だからこそ、最後の一瞬の出来事は(ネタバレになるから言えないけれども)、非常に小さくとも、観ている者に小さな幸せを感じさせてくれる終わり方になっているのかもしれないです。

既視感バリバリ!「こんなJKいるよねー」と思わせる登場人物たち

この映画は、アニメ作品ですがその辺の青春系実写映画なんかより、ずっと実写っぽくて、本当にふたりの女子高生の、ある時期の日々を見させられている気になります。
そんな中で、彼女たちを取り巻く周りの子達も、今の、というか普遍的な?女子高生を思い起こさせる女の子達でした。特に印象的なのが、みぞれと同じオーボエ担当の後輩の剣崎梨々花と、副部長の中川夏紀のふたり。梨々花はコミュ力モンスター的な女の子で、希美以外に一切の興味を示さないみぞれにグイグイ話しかける後輩女子。実際には、みぞれにつれない態度で返されるのですが、挫けることなく彼女に接していきます。そんな彼女が希美に相談するシーンで「私、鎧塚先輩と上手くやれてなくて、嫌われてるのかなって」というシーンがありますが、観ているこちらとしては、というか男子としては「イヤイヤ、それはみぞれの親友の希美には言っちゃダメだろ!」と、思わずツッコミそうになりました。ですが当の希美も同級生の友達に「みぞれと上手くいってなくて、みぞれって何考えてるかわかんない」と言ってしまったりして、女子こえー!と本人のいないところで、やんやいう彼女達にビビりつつも、「あー、でも女の子ってこういうことを普通に言ってる感じがする」と納得させられたりもしました。(ちなみに梨々花は本当は非常に良い子です!彼女の名誉のために一応)
もうひとりの夏紀は頼れる姉御的な感じでした。みぞれのことも希美のこともよく見ていて、それ以外にも部長の子にも気を回して、誰のことも否定せず、ただただ寄り添っていてあげる。しんどそうにしていたら代わってあげて、責められている子には理解を示してあげる。こういふ人に私はなりたいと思わせるような程、出来た高校三年生でしたが、確かにいました、こういう頼れる子。女子じゃなかったかもですが、学級委員をやっていて部活ではキャプテンもやってるような、勉強がわからなかったら教えてくれたり、ちょっと荷物を抱えていたら、ふと助けてくれるような、ものすごく良い奴が、学年にひとりはいました。

青春の追体験をさせてくれる、青春を離れて少し経つ20代にこそ観て欲しい

この物語は、高校時代の自分を重ねる物語だと思います。高校の頃の恥ずかしい記憶や甘酸っぱい思い出、大切にしていた物や人、学校の中でも入り浸った場所など、高校時代の思い出が非常に繊細に描かれています。
高校時代、もとい青春時代の思春期がちょっとした過去になった20代の人にとっては、脱ぎ去った青春スーツを着ている真山の姿を見せつけられた「ハチミツとクローバー」の野宮さんのように「うがー」となるかもしれないですが、時には昔の話をするように、そんな青春の追体験をしてみてはいかがでしょうか?

4月21日より全国公開
公式サイト:http://liz-bluebird.com/

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